クロムスピネル chromianspinel
(Mg,Fe)(Cr,Al)2O4
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等方体。n=2.1前後(なお,クロム鉄鉱(FeCr2O4)成分に富むと黒色不透明になる。)。

色:濃褐色。クロム鉄鉱(FeCr2O4)成分に富むと黒色不透明になる。

形態:8面体の自形の断面が4角や6角に見え,その自形の稜を(1 1 0)面が欠稜しているものもある。粒状・集粒状のものも多い。

へき開:認められないが,時に裂開が(1 1 1)方向に認められる場合がある。

双晶:(1 1 1)の双晶(スピネル双晶)があるが,等方体なので,形態的にわかるだけである。双晶したものは(1 1 1)面が発達した三角板状で,それは短冊状の断面に見えることがある。

累帯構造:時にMg⇔FeやCr⇔Alの置換による累帯構造がある。光学的には褐色のMg・Alに富む粒子の周囲を,黒色不透明に近いFeCr2O4成分に富む部分が取り巻いているのが見られる場合がある。

産状

通常,かんらん岩類・蛇紋岩・コマチアイトなどの超苦鉄質岩中に副成分的に含まれる。蛇紋岩中では蛇紋岩化の際,クロムスピネルの周囲を取り巻くように微細な磁鉄鉱が平行連晶で晶出していることがある。なお,ざくろ石かんらん岩にはクロムスピネルは少ない(ざくろ石かんらん岩は地下約200kmの超高圧条件でできるのでAlやCrはクロムスピネルではなく,パイロープ−ノリンジャイト系ざくろ石として結晶化する)。

一方,大陸地域の層状貫入岩体の斜長岩などのはんれい岩中に巨大な層状をなし,クロム鉄鉱岩を形成していることもあり,このものはおおむねクロム鉄鉱成分に富み薄片では不透明のことが多い。
その他の岩石に出現することはほとんどなく,時に高Mg安山岩(無人岩など)に副成分的に含まれる程度で産状は限られている。




造山帯のかんらん岩中のクロムスピネル
Cr:クロムスピネル,Ol:かんらん石

通常,肉眼でも散点状で見られる造山帯のアルプス型造山帯のかんらん岩中のクロムスピネル。薄片の薄い部分が暗褐色でわずかに光を透す。かんらん石は圧砕されて細粒化している。
下は肉眼で見たもの。



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マントル包有物のかんらん岩中のクロムスピネル
Cr:クロムスピネル,Ol:かんらん石,Opx:頑火輝石

これはMg,Alに富むもので,褐色でかなり光を透すもの。他鉱物との境付近の薄片の薄い部分はかなり透明感がある。

下は肉眼で見たもので,赤矢印先がクロムスピネル。






蛇紋岩中のクロムスピネルと磁鉄鉱

Cr:クロムスピネル,Mt:磁鉄鉱,Ol:かんらん石,Ser:蛇紋石

このクロムスピネルは自形(8面体)の断面の多角形で,暗褐色でわずかに光を透すが,その周囲を取り巻く微粒集合体の磁鉄鉱は全く黒色不透明。この磁鉄鉱は,かんらん岩の蛇紋岩化の際に輝石類やかんらん石などから遊離したFeが,クロムスピネルの周りを取り巻いて平行連晶をなしたもの(クロムスピネルと磁鉄鉱は基本的に同じスピネル構造の原子配列なので平行連晶をなす)。反射偏光顕微鏡で観察するとクロムスピネルは磁鉄鉱よりも反射色が褐味に乏しく,やや暗いのでわかりやすい。



アルカリ玄武岩中に見られるマントル包有物のかんらん岩由来のクロムスピネル
Cr:クロムスピネル,Ol:かんらん石,A:普通輝石

クロムスピネルはほぼ超苦鉄質岩固有の鉱物だが,マントルから上昇したマグマの固結物であるアルカリ玄武岩には,マグマの上昇過程でマントル包有物であるかんらん岩を捕獲し,その破砕物のクロムスピネル(平行ニコルで暗褐〜褐色,クロスニコルで暗黒)が混入している場合がある。そして,このようなアルカリ玄武岩では,かんらん石や輝石類も同様にマントル包有物のかんらん岩の破砕物のことが少なくない。これらはアルカリ玄武岩本来の造岩鉱物とは異なるので注意を要する。